事業承継への第一歩 第3弾『従業員承継の成功を目指して』
こんにちは、ブロードリーフの楠本です。前回は「親族内承継」をテーマに、課題とその対策についてお話ししました。今回は、事業承継のもう一つの選択肢である「従業員承継」に焦点を当て、そのメリットや課題、成功のポイントを詳しく見ていきましょう。
経営者引退に伴う経営資源引継ぎの概念図

従業員承継のメリット
従業員承継にはいくつものメリットがあります。まず、今の従業員が引き継ぐことで、仕事の流れが途切れず、会社の運営がスムーズに進みます。会社の文化や大事にしてきた考え方もそのまま引き継がれるので、大きな混乱が起こりにくいのも大きな利点です。
また、取引先や他の従業員にとっても、これまでの関係性が維持されるため、安心して取引を続けてもらいやすくなります。さらに、外部の第三者に会社を売却するよりも、社内の従業員に引き継ぐほうが手続きが簡単で、時間やコストの面でも負担が少なくなります。M&Aなどの方法と比べても、社内での承継はよりスムーズに進めやすいのが特徴です。
従業員承継の現状と課題
中小企業庁の調査によると、後継者問題を抱える企業の多くが「従業員への承継」を検討する傾向にあります。しかし、実際には以下のような課題があり、スムーズな承継には計画的な対応が求められます。
- 経営者としての意識改革
- 従業員承継を実施するにあたって、最も大きな障壁となるのは「従業員は経営者ではない」という現実です。経営者としての資質を持っている従業員なら問題ありませんが、多くの従業員は自らの役割を「仕事」として捉えており、「経営者の覚悟」を持つことは容易ではありません。そのため、経営戦略の理解やリーダーシップの強化が必要です。現経営者の指導や実践的な経験が欠かせません。
- 後継者の育成不足
- 従業員が経営者となるには、経営管理や財務知識の習得に加え、マーケティングの知識を身につけることも重要です。市場の動向を分析し、効果的な販売戦略やブランディングを構築する力が求められます。また、組織強化やチームマネジメントの視点を持ち、社員のモチベーション向上や生産性向上を図るスキルも不可欠です。これらを体系的に学べる計画的な育成プログラムの導入が求められます。
- 事業成長への意識
- 従業員や投資金額(負債)を単なるコストではなく、収益拡大のための重要な要素と捉え、精度の高い事業計画を立案し、実行する。
- 資金の確保
- 会社の買収資金や株式取得の資金をどのように確保するかが課題となります。金融機関からの融資や、段階的な持株移転など、様々な手法を検討する必要があります。
- 属人的な経営のリスク
- 現経営者が個人のスキルやノウハウに依存した経営を行っている場合、後継者がそれを引き継ぐことが困難になります。経営の属人化を防ぐためには、業務の標準化やマニュアル化が必要です。
従業員承継を成功させるためのポイント
従業員承継を成功させるためには、以下のポイントを押さえることが大切です。
- 資金調達の選択肢を検討
- 株式評価の適正化や事業譲渡という選択肢も検討し、各自治体が支援する経営革新計画や融資、補助金制度を活用することで、資金の負担を軽減する。
- 経営体制の明確化
- 新しい経営体制のもとで、誰が組織を動かしていくのかを全従業員に自然に理解してもらう。そのために、現経営者の明確な意思表示、呼称や言葉遣いの変更、服装などの外見的な要素を見直し、経営者としての立場を明確にする。
- 経営者どうしのネットワーク構築
- 異業種交流会などを活用し、他の経営者と意見交換する場を持つことで、学びを深め、視野を広げる。
他の対策に関しては親族内承継と同様ですので、詳しくは「事業承継への第一歩_第2弾:親族内承継の成功を目指して」をご参照ください。
結論
従業員承継は、企業の継続性を確保しつつ、スムーズな事業引継ぎを実現するための有力な手段です。ただし、後継者の育成や資金確保などの課題を克服するために、計画的な準備が不可欠です。成功のためには、専門家の支援を受けながら、長期的な視点で取り組むことが重要となります。
事業承継を検討している経営者の皆様は、早めの準備を心掛け、適切な後継者を見つけることをおすすめします。
次回予告
次回は「社外への引継ぎ」についてお話しします。親族内・従業員承継が難しい場合、M&Aなどを活用した第三者承継が有力な選択肢となります。具体的な手法やメリット・デメリットを解説していきますので、お楽しみに!