【2025年6月1日施行】熱中症対策「義務化」へ!整備・鈑金工場の経営者が知るべき法的リスクと今すぐできる具体策

2025年6月1日、労働安全衛生規則の一部を改正する省令が施行され、これまで努力義務とされてきた職場での熱中症対策が、罰則を伴う明確な「法的義務」となりました。これは、自動車整備・鈑金業界で事業を営む皆様にとって、安全管理体制の抜本的な見直しを迫る重要な法改正です。
本記事では、この法改正の要点と、取るべき具体的な対策、そして義務を果たすための効果的な解決策を紹介します。

法律は何を求めているのか?義務化された対策の概要

今回の法改正で、事業者は熱中症を予防するため、具体的な対策を行うことが法的に義務付けられました。対策を怠った場合、法的なリスクを負うことになります。対策の中心となるのが、「暑さ指数(WBGT)」の活用です。事業者の皆様はWBGT値を把握し、その数値に応じた適切な熱中症対策を行う必要があります。

なぜ対策は急務なのか?職場の熱中症発生状況

①データが示す、職場の熱中症災害の深刻な状況

対策が急がれる背景には、深刻な労働災害の現状があります。厚生労働省の統計によれば、職場における熱中症による死傷者数は、毎年数百人から多い年には1000人を超える規模で発生しております。さらに深刻なのは、死亡災害に至ったケースの分析結果です。死亡災害のほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」に起因していることが明らかになっています。 具体的には、以下のような状況が報告されています。
 具体的には、以下のような状況が報告されています。

  • 発見の遅れ
    一人での作業や、周りの人が気づかないうちに症状が悪化し、重篤化した状態で発見されるケースが多くあります。
  • 異常時の対応不備
    症状が現れた際に、「少しでも休めば大丈夫」と軽く考え、病院への搬送が遅れてしまうケースです。

これらのデータは、熱中症が予防可能でありながら、現場での適切な知識不足と緊急時のルールが決まっていないことが、最悪の事態を招いているという厳しい現実を示しています。事態を未然に防ぐためにも、事業者の皆様は、今すぐ対策を行う必要があります。

②熱中症対策の「義務化」と事業者が負う法的リスク

こうした状況を背景に労働安全衛生法に関連する省令が改正され、事業者の熱中症対策は従来の「努力義務」から、罰則を伴う明確な「法的義務」へと変わりました。これにより、事業者は、客観的な指標である「暑さ指数(WBGT)」を把握し、その数値に応じた具体的な対策(作業中断、休憩時間の確保など)を講じることが法的に求められます。

この義務を怠り、対策が不十分であると判断された場合、労働災害が発生していなくても、事業者は法律違反として罰則(懲役または罰金)の対象となる可能性があります。もはや、「知らなかった」「対策の仕方が分からなかった」では済まされません。熱中症対策は、従業員の命と健康を守る社会的責務であると同時に、重要なコンプライアンス課題となったのです。

あなたの工場は大丈夫?自動車整備・鈑金工場の作業環境特有の熱中症リスク

一般的な屋外作業とは異なり、自動車整備・鈑金工場の作業環境には、熱中症のリスクを著しく高める特有の要因が数多く存在しています。ここでは、客観的な指標と具体的な危険要因の両面から、そのリスクを解説します。

①「暑さ指数(WBGT)」で見る危険度

まず、自社の作業環境がどの程度危険なのかを客観的に把握することが、すべての対策の第一歩となります。そのための指標が、法改正でも重要視されている「暑さ指数(WBGT値)」です。暑さ指数(WBGT値)とは、気温だけでなく湿度や日射・輻射熱(地面や建物・物体から出る熱)など、人体に与える熱ストレスを総合的に評価する指数です。

国が定める「WBGT基準値」を見てみましょう。表を見ると「継続的な手及び腕の作業(釘打ち、盛土)」といった中程度の作業では、WBGT基準値は28℃に設定されています。さらに、「強度な腕及び胴体の作業」といった高代謝率の作業では、基準値は26℃とさらに厳しくなります。

インパクトレンチの連続使用、タイヤの組み換え、ボディパネルのハンマー作業など、整備・鈑金工場における多くの作業は、これらの「中程度」から「高代謝率」の作業に該当する可能性があります。つまり、普段何気なく行っている作業の多くが、国が定める「熱中症対策が必須」なレベルに当てはまる可能性があります。

②整備工場ならではの熱中症を誘発する危険要因

WBGT値を上昇させる具体的な要因として、整備・鈑金工場には以下のような熱源が溢れています。

  • エンジンや機械類からの排熱
    稼働中のエンジン、コンプレッサー、溶接機などから発せられる熱は、工場内の温度を局所的かつ大幅に上昇させます。
  • 強力な輻射熱
    夏場の強い日差しを受けた建物の屋根や壁、コンクリートの床面からの照り返しは、作業者が常に熱線に晒されている状態を作り出します。
  • 閉鎖的で換気の悪い空間
    車両の下にもぐるピット内や、集塵・排気設備が不十分な塗装ブースなど、熱や湿気がこもりやすい場所での作業は特に危険です。
  • 身体的負荷の高い作業
    中腰での作業や重量物の取り扱いなど、作業自体が多くの熱を体内で発生させます。

これらの要因が重なり合うことで、たとえ外の気温がそれほど高くなくても、工場内では熱中症のリスクが非常に高い環境となります。

事業者に求められる熱中症対策の全体像

自社のリスクを把握した上で、次に行うべきは具体的な対策の立案です。熱中症のリスクは、様々な要因が複雑に絡み合って発生します。そのため、対策も一つの方法に頼るのではなく、課題を解決するための「システム」として総合的に進める必要があります。事業者の皆様が法律で求められる対策は、主に以下の4つの分野から構成されています。

① 作業環境管理:まず涼しい場所を作る

物理的な作業環境を改善し、熱中症の危険そのものを減らす対策です。

日差しを遮り、暑さ指数(WBGT値)の上昇を抑える

屋外や開口部に面した作業場所では、直射日光を遮ることが基本です。簡易的な屋根や遮光ネットを設置するだけでも、WBGT値の上昇を抑制できます。

「クールダウン」できる休憩場所を用意する

作業場所の近くに、冷房の効いた涼しい休憩場所を準備しましょう。難しい場合、日陰に椅子とテーブルを置き、大型扇風機やスポットクーラーを配置するだけでも、従業員が体温を下げることができます。

② 作業管理:具体的な「ルール」で熱から身を守る

作業の進め方や方法を工夫し、体への負担を軽減するための対策です。

作業スケジュールの見直し

特に暑い時間帯は、連続での作業時間を短縮することが有効です 。例えば「気温が30℃を超える日は、1時間に10分の休憩を必ず取る」など、誰にでもわかる具体的なルールを設けて周知徹底しましょう。

水分・塩分補給を習慣化

「のどが渇く前」に水分を摂ることが重要です。作業の前後や作業中に、定期的かつ計画的に水分と塩分を摂取するように習慣化しましょう。

服装の基準を示す

熱や湿気がこもりにくく、吸湿性や通気性に優れた服装を着用し、作業してもらうことが大切です 。会社として推奨する服装の基準(例:通気性の良い長袖、吸汗速乾性のインナー)を具体的に示しましょう。

管理者の定期的な巡視

作業中の従業員の状況を定期的に確認することで、体調の異変を早期発見することにつながります。

③ 健康管理:「声かけ」から始める個々のケア

従業員一人ひとりの健康状態を把握し、個々のリスクに対応する対策です。

日々の健康状態の確認

朝礼時などで、従業員の健康状態や身体の状況を日々確認することが重要です 。一人ひとりの顔色を見て「昨日はよく眠れましたか?」と一言声をかけるだけでも、体調不良のサインを早期に発見するきっかけになります。

日常の健康管理に関する情報提供

睡眠不足、体調不良、前日の飲酒、朝食を抜くなどが熱中症の発症のリスクを高めます。このような情報を従業員に伝え、普段から自分の健康を管理するよう促しましょう。

④ 労働衛生教育:「短く、繰り返し」で知識を共有する

従業員自身が熱中症の危険を「自分ごと」としてとらえ、適切に行動できるようにするための対策です。

周知すべき4つのこと

従業員には、熱中症の症状、予防方法、緊急時の救急処置、そして実際に起きた熱中症の事例といった4つの内容を周知することが重要です。

効果的な伝え方

「朝礼で話す」「休憩所にポスターを貼る」など、一度に詰め込むのではなく、短く、分かりやすく、何度も繰り返し伝えることが大切です。

これらの対策を組織的かつ継続的に実行することが、従業員の安全と健康を守り、企業の法的責任を果たすことに繋がります。

対策の基本にして要点、「服装の工夫」で従業員を守る

紹介した4つの対策の中でも、すぐ着手でき、かつ効果が高いのが「服装の工夫」です。
法律では、熱を吸収したり、熱がこもりやすかったりする服装は避け、吸湿性や通気性に優れた服装を着用することが推奨されています。具体的には、汗を素早く吸収・乾燥させる素材を選ぶことで、汗が蒸発する際の気化熱による冷却効果を利用し、体を冷やすことが基本とされています。

近年、この「汗の冷却効果」を最大限に利用した「高機能ウェア」が注目されています。例えば、ファン付きウェア(空調服など)がその代表例です。ファン付きウェアとは、内蔵された小型ファンが服の中に空気の流れを作り、常に汗を乾かし続けることで、体を効果的に、継続的に冷やします。これにより、猛暑の中でも体温の上昇を効果的に抑え、熱中症のリスクを大幅に低減させることができます。

このように、適切な一着を選ぶことは、従業員一人ひとりが快適に、そして安全に作業に集中できる環境づくりにつながります。

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まとめ:待ったなし!法改正に対応した熱中症対策を

2025年6月1日から施行された法改正は、すべての事業者にとって重要な転換点です。熱中症対策は、従業員の安全と健康を守る企業の責務であると同時に、会社の生産性と信頼性を維持するために避けては通れない経営課題となりました。

本記事で紹介したポイントを参考に、事業所の作業環境を改めて見直し、適切な対策を行い、万全の体制で夏を乗り切りましょう。


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