ITと既存人材の活用で解決!自動車整備工場の人材不足対策

自動車整備士の人材不足が深刻化する背景

自動車整備業界では、深刻な人手不足に直面しています。国土交通省の調査によると、2003年には約12,000人いた自動車整備士の専門学校入学志願者数が、2017年には1万人を切り、2020年度には6,500人にまで減少しているのが実情です。

この人材不足の背景には、複数の要因が指摘されています。第一に、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が大きな影響を与えていると考えられています。全産業で人材確保が課題となる中、自動車整備業界を志す方が先細りになっています。

第二に、若年層の就職先として自動車整備業界の魅力が薄れてきていることが挙げられます。いわゆる3K(きつい・汚い・危険)の職場イメージに加え、賃金水準が他業種と比べて低位にあることなどが、業界の人気低下につながっているとされています。

一方で、自動車の保有台数自体は増加基調にあり、車検や定期点検、故障修理などへのニーズは根強く存在しています。しかし、整備業務を支える人材の大幅な減少により、需要に適切に対応できなくなるリスクが高まっています。

さらに、既存の整備従業員の高齢化も深刻な課題となっています。業界全体で高齢化が進行し、今後は大量のリタイアが見込まれています。整備専業事業者の整備士の平均年齢は52歳を超えており、5年後、10年後にはさらに高齢化が進むことが予想されます。

このように、自動車整備業界を取り巻く環境は厳しさを増しており、抜本的な人材確保対策が急務とされています。次世代の担い手育成と併せて、既存の人材の活用や業務効率化などの対策を迅速に講じる必要があります。

参考:国土交通省 自動車局 整備課
   「議事1 自動車整備士不足の現状と行政の取組」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/230427/startup13_02.pdf

人材不足解消へ向けた取り組み

業務全体の見直しとITツールの有効活用

自動車整備業界の人材不足解消に向けて、まず第一歩として実行できるのが、既存の業務を見直すことです。一見すると手間がかかるように見えても、中長期で見たときには大きな業務効率化につながるケースが多々あります。

特に古くから事業を行っている方などでは、「昔から決まっている」として、フロントの方も業務を疑わずに実施しているケースがあります。具体的には、作業指示書の他にも別途の紙管理があったり、予約を受けた段階で、ホワイトボードと受付表の二重管理を実施したりなど、見直すべき業務もあります。

ここでは、既存の業務で実施していることを「疑ってみる」ことを是非実践して頂きたいと思います。改めて確認すると、不必要なことというのも見つかるかもしれません。

また、既存業務の効率化としてITツールの積極的な活用がオススメとなります。基本的に「アナログ」でできないことは「デジタル」でもできないと言われています。例えば、予約管理については、システムでの管理のみとするなどの効率化がポイントになります。予約管理は単純なスケジュール管理ではなく、顧客と車両を紐づけ、予約段階から要望をお伺いし申し送りとしてメモを残すことで、その後の工程で効率化につながります。

整備業務の効率化にも寄与するITツールが多数登場しています。整備工程の可視化から各メカニックやピットの工程と最適化、AIによる故障箇所の診断支援(開発中)など、今「アナログ」で実施している業務がどんどん「デジタル」に置き換えられるようになりました。

ITツールの積極導入により、業務の自動化・効率化が進むことで、生産性の大幅な向上と人員の有効活用が実現できるでしょう。整備現場の人手不足を補う有力な手段として、ITの力を最大限に活用することが求められています。

高齢者人材の活用と定着化

自動車整備業界では、既存の従業員の高齢化が大きな課題となっています。今後、大量の退職に伴う人材不足が避けられない状況にあり、高齢者の人材活用が不可欠となっています。

整備専業事業者の整備士の平均年齢は50歳を超えており、今後の大量退職に備える必要があります。高齢者の経験と技術力を活かす仕組みづくりが欠かせません。高度な技術を要する作業と単純作業を分離し、分業体制を確立することが重要です。

同時に、高齢者でも無理なく作業が行える職場環境の整備が求められます。具体的な例として、ロボットスーツの導入(マッスルスーツ)により、重量物の運搬作業の負荷を大幅に軽減できます。また、タイヤリフターの活用などによる作業の自動化・効率化も有効な手段と考えられています。

加えて、高齢者にも働きやすい労働環境の整備が不可欠です。柔軟な勤務体系の整備や、健康管理体制の充実が欠かせません。さらに、高齢者の生活実態に合わせた賃金体系の見直しや、手厚い休暇制度の導入など、経済的な支援の拡充も重要な課題です。

このように、高齢者の人材活用に向けては、作業環境の改善と生活面での支援の両面から取り組む必要があります。高齢者一人ひとりの経験と技術を最大限活かし、長期的な就労を可能にする仕組みづくりが急務となっています。

専門人材の採用と育成が急務

業界イメージの改善と採用活動強化

自動車整備業界が直面する人材不足解消には、専門性の高い人材の確保が急務となっています。しかし、同業界は長らく3K(きつい、危険、汚い)のイメージがあり、若年層を中心に敬遠される傾向にあると言えます。業界の魅力を効果的にアピールし、優秀な人材を惹きつける取り組みが欠かせません。

まずは業界イメージの改善に注力する必要があります。整備工場の清潔で明るい作業環境づくりはもちろん、ITツールの導入による業務効率化で、よりスマートな働き方を実現することで、新しい価値観を持つ若者にも受け入れられると考えられます。

併せて、積極的な採用活動を展開することが重要です。業界団体や自治体と連携し、高校生や大学生に向けたインターンシップの場を設けるなどして、業界の実態に触れる機会を増やすことで、関心喚起を図ります。さらに、待遇改善や手厚い研修制度、キャリアパスの明確化など、魅力的な就労環境を提示することで、志望者を引き付けることができるとも言えます。

こうした取り組みを通じて、業界への誇りと使命感を持った専門人材を発掘、育成していくことが、自動車整備業界の発展に欠かせません。そのためには、自動車整備工場自体が変わっていくことが必要であり、店舗や環境への対応を進めることが必要となります。

教育体制の整備とキャリアパス確立

専門人材の確保には、整備士育成の体制整備が不可欠です。優秀な人材を定着させ、スキルアップを図るためにも、きちんとした教育システムとキャリアパスの確立が求められます。

まずは新人教育に力を入れる必要があります。ベテラン社員によるOJTに加え、座学と実技を組み合わせた充実の研修プログラムを用意し、一から基礎を徹底的に学ばせます。その上で、定期的な技術講習会の開催や、研修を通じて、最新の知識やノウハウを継続的に提供していくことが必要です。

併せて、目標とするスキルレベルを明確化し、到達度に応じた資格認定制度を設けることも重要です。技能ランクに応じた処遇や、昇格要件を定めることで、整備士の目標意識を高め、モチベーション向上につながります。ここでは、2級整備士を目指すことはもちろんですが、社内同時の資格認定制度を用意することもオススメしています。

さらに、キャリアアップの可能性を具体的に示すことが大切です。営業職や管理職、教育スタッフなど、多様な選択肢を用意し、適性に合わせて幅広い道を提供します。実力次第では独立開業のチャンスも与え、やる気のある者にはしっかりと報いる仕組みを整備することも重要です。

このように専門性を高める環境を整え、キャリアビジョンを描ける体制を作ることで、多くの有能な人材の定着と活躍が期待されます。

外国人技能実習生の受け入れ促進

日本語力向上支援と人材フォロー体制

自動車整備業界の人手不足解消に向けて、外国人技能実習生の積極的な受け入れも一つの選択肢となります。しかし、言語の壁は大きな課題であり、コミュニケーション力の育成と、きめ細かいフォロー体制の構築が不可欠であると言えます。

まず、日本語能力の向上を支援するプログラムを設ける必要があります。基礎的な日常会話は大丈夫だとしても、作業時に必要な専門用語まで、段階を踏んで言語学習の機会を提供する必要があります。特に口頭の理解力を高めることが重要で、作業指示の的確な伝達に役立ちます。

さらに、技能実習生に寄り添いサポートしていくことが重要です。言語の壁を取り除くだけでなく、生活面でのフォローアップを行うことで、実習生のストレス解消にもつながり、定着の鍵となります。ある技能実習生を受け入れている工場様においては、「地震があるとフォローしている」と言います。日本は地震大国とも言われており、地震に耐性がない方も多いため、手厚いフォローを実施していると言います。

外国人技能実習生が力を発揮するには、言語支援はもちろん、受入側の理解と配慮が欠かせません。個々の能力を最大限に引き出せるよう、きめ細かいフォロー体制を整備することが何より重要と言えます。

業務プロセスの見直しと価値ある仕事づくり

従業員同士の業務支援体制構築

人材不足に対処するには、既存の従業員が助け合える環境づくりも欠かせません。お互いをフォローし合う体制を整備することで、一人一人の業務負荷を軽減できます。

まずは、高齢者層と若手層の知識・経験の共有を促進することが挙げられます。ベテラン社員には後進の指導に当たってもらい、逆に若手は最新の技術動向を伝授してもらうなど、世代を超えた相互学習の場を設けることが有効と言えます。

さらに、協力会社とのネットワーク化も重要な課題です。地域の整備業者同士が協力し合えるようになれば、技術的な相談や人員の応援要請などもスムーズになります。現在も、付近の「仲の良い工場」同士で、作業についての相談や入庫の融通などを実施しているものと思いますが、今後もネットワークを強固にし、関係構築しあうことが重要です。

従業員一人ひとりに過度な負担がかからないよう、社内外でお互いに支え合える環境を整備することが不可欠です。良好なコミュニケーションのもと、協力体制を構築することで、人材不足への対策が可能になると言えます。

やりがいのある職場づくり

人材の定着と活躍には、やりがいのある職場環境も必要不可欠です。自動車整備業界に誇りを持てるような魅力的な仕事づくりが求められています。

まずは、整備士の技能を適切に評価する仕組みを設けることが重要です。作業の質や顧客満足度、資格取得状況などを基に、処遇に反映させます。併せて、優れた仕事ぶりには報奨金を支給するなど、モチベーションアップにつなげることもオススメです。

また、キャリアアップの道筋を明確化し、将来の展望が描ける環境を用意し、適性と希望に合わせて進路を選べるようにするのも一案と言えます。管理職やスペシャリストなど、多様な選択肢を用意することが重要です。

加えて、自身の仕事がいかに重要な役割を担っているかを認識してもらえるよう、啓発活動にも力を入れることが重要です。企業の一員として誇りを持てるよう環境づくりに注力したいところです。

やりがいのある職場は、従業員のモチベーションとロイヤリティを高め、自動車整備業界の発展にもつながります。質の高い仕事と働きがいを同時に実現することが肝心なのです。

まとめ

自動車整備業界が直面する人材不足は深刻な問題です。入庫台数は維持・微増することを前提とした際に解決策は、人材募集(人を雇い入れる)か、業務を見直すことかが考えられることと言えます。

特に業務についてはすぐに実行できることとして、既存業務の見直しやITツールの活用がオススメです。本当に必要な業務なのかどうかを見極めつつ、ITツールでのデジタル化を目指すことで大幅な省力化が期待できます。

また、やはり若手整備士の確保が欠かせません。そのためには、業界イメージの改善と採用活動の強化、教育体制の整備、キャリアパスの明確化が不可欠です。また、外国人技能実習生の受け入れ促進と、言語支援を含むフォロー体制の構築も重要な取り組みとなります。

加えて、従業員同士の支援体制の構築によって生産性を高める必要があります。さらに、整備士の技能を適切に評価し、キャリアアップの道を用意するなど、やりがいのある職場づくりにも注力していきましょう。

このように、人材確保、人材育成、業務改革(IT活用含む)を3本柱として、自動車整備業界全体で抜本的な対策に取り組むことが求められています。人材不足に対する解決策は複合的なアプローチが不可欠です。


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