【SPECIALIST COLUMNS(スペシャリストコラム)Vol.1】中古車販売における支払総額表示の義務化について

自動車販売に関する様々なルールを定める「自動車公正競争規約(以下規約)」は、消費者庁および公正取引委員会のもと、一般社団法人自動車公正取引協議会(以下、公取協 https://www.aftc.or.jp/)が管理運営する、表示と景品に関する業界自主ルールです。この規約において、いよいよ2023年10月1日より中古車販売の支払総額表示の義務化がスタートしました。

支払総額表示が義務化されるまでの経緯

不動産をはじめとした多くの他業界では、サービス・商品販売において、既に支払総額表示が義務化されている一方、わが自動車業界は遅きに失した感があり、やっと具体的な法整備が整ったという所です。

オトリ広告、中でも販売価格に関する不当表示については、過去おびただしい数の消費者クレームが寄せられ、長い間問題視されてきました。2019年10月には業界専門誌でも「支払総額の明示化を求める動きが強まった」という内容の記事が掲載されています。

オトリ広告とは、インターネットやチラシPOPといった広告表現では価格を安く見せて客を呼び込み、実際の商談時には諸費用の積み上げで支払総額を高額に吊り上げて注文を取る手法です。

 業界団体内でも、中古車販売における不当表示の横行は深刻な問題であり、不適切な販売行為の撲滅が急務であるとされたことから「業界を挙げてこの問題を改善しよう」「具体的な表示ルール改定を行おう」との機運が一気に高まりました。

そして2年後の2021年9月には、同業界専門誌に「公取協が消費者クレームの多い中古車販売大手を徹底調査し、11社に対して実際に改善指導を行った」という記事が出ています。

このように、公取協は4~5年の歳月をかけて業界内の啓蒙活動と実際の改善指導のプロセスを重ねてきました。そして2022年には規約の大綱が出来上がり、本年10月の運用開始に至るわけです。

中古車販売の歴史は不適切販売との戦いであったと言っても過言ではありません。

まず第1の戦いは走行距離メーターの不正撲滅でした。

この時は往時の業界団体の働きかけで、車検証備考欄への走行距離記載を実現させ、不正撲滅に大きく寄与しました。

そして第2の戦いは修復歴表示の義務化、第3の戦いは非現車撲滅です。

これは中古車情報サイトなどの一般的な広告媒体で多く見受けられた問題で、実際は売れてしまって存在しないクルマの写真を使い、適当なスペックと安い価格を記入して「オトリ」とする広告を出し、購買客をおびき寄せる手法です。実際に在庫車が10台しかないのに、中古車情報サイトに60台も載っている等といった例も多く見られました。

こうして中古車情報サイトをはじめとした一般向け広告媒体において、修復歴の有無表示と車台番号下3桁表示の義務化が始まったわけです。

しかし、価格競争の激しい中古車販売市場においては、表示する価格に「消費税込みの車両本体価格」を用い、価格優位性をアピールすることが絶対条件でした。

そこに付帯諸費用や整備費用、保障費用、オプション費用等を積算していって、支払総額(いわゆる乗り出し価格)を高く設定して粗利益を稼ぐといった手法が一般的に行われていました。

良心的な販売店でも、車両本体価格に比べ支払総額は登録車の場合で30万円以上、軽自動車でも20万円以上高くなるというのが普通だったと思います。

そしてこの状態が今まで放置され、一部の悪質業者による不当販売が横行することになってしまいました。大手中古車販売業者による不当販売の実態が広く報道され、世間に広く知られるようになったのは記憶に新しいところです。

支払総額表示の義務化の具体的なルールとポイント

さて、支払総額表示の義務化の具体的なルールのポイントを、以下にご説明いたします。

表示すべき支払総額とは、その金額を支払えば、合法かつ安全にそのクルマを運転できる金額=乗り出せる金額です。

それ以外に追加費用が必要だというのは、一切認められません。

但し、お客様によって条件の異なる任意保険料や、お客様の要望により(無くても良いが)追加するパーツやサービスの費用は総額に含めません。

次に「支払総額」では、「車両価格」と「諸費用」の2つに分けて内訳を表示しなければなりません。

さらに、「車両価格」には「車両本体価格」に加えて「整備費用」と「保障費用」が含まれます。

諸費用」とは「自賠責保険料」「税金等」「リサイクル料金」「検査登録手続代行費用」「車庫証明手続代行費用等」です。

図1 支払総額の説明① 公取協パンフレットを元に作成。

表1 支払総額の説明② 公取協パンフレットを元に作成。

ここまで総額表示義務化のルールを述べてきましたが、従来からのルールを含めて必須表示となる重要事項は次のとおりです。

  1. 車名・主な仕様区分
  2. 初度登録年月(軽自動車は初度登録年)
  3. 販売価格(ここが今回テーマの支払総額表示となります)
  4. 走行距離(1,000未満は卒走行メーター。「0km」はNG)
  5. 自家用・営業用・レンタカー・その他
  6. 車検満了年月
  7. 前使用者の点検整備記録簿の有無
  8. 保証の有無とその内容
  9. 定期点検整備実施状況
  10. 修復歴の有無
  11. リサイクル料金(殆どのケースが「リ済込」)
  12. 車台番号下3桁
  13. 塗装色

次のようにまた、表示物(媒体)ごとにルールが異なってきますので下表にまとめます。

表② 表示義務対応表 公取協パンフレットを元に作成

支払総額表示の義務化というのは、一見行政による規制強化のような印象を受けます。

特に大量の在庫商品車両を保有し、中古車情報サイトに広告掲載して売ってきた中古車販売店にとっては、大変な痛手であるのは事実です。

プライスボードから広告まで、いわゆる高い(グロス)値段を掲載しなければならないのですから、価格競争が非常にやりにくいはずです。

一方で、そのような業界常識でこれまでやってきたので、数多くの消費者クレームを生み出し、業界全体の信頼を損なってきたと言えます。

それ故、今回の公取協の規約改正に至ったわけです。

今般、大手中古車販売店の不当販売報道により、消費者の見る目は一層きびしいものになっています。

しかしながら、自動車という商品は人の命を預かっているわけですから、安心と安全、環境保全(公害防止)が担保されているのは絶対条件です。

価格重視で、品質が二の次であってはなりません。

大手中古車販売業者が価格重視戦略で大量に売りさばいていた時代は、もう過去のものになりつつあります。

安心安全の整備品質、偽りのない商品告知、そして適正な利益と販売価格の設定。

このような誠実な商売が求められる時代がようやく到来しつつあります。

今般の支払総額表示義務化をどう捉えるか?これまでずっと整備品質重視で、地域に根差して誠実にやってきた企業様にとっては、車両販売においてもまさに他社と差別化するチャンスではないでしょうか。


本コラムの執筆者ご紹介

株式会社オートサーバー
事業企画部 チーフマネージャー 岩城秀彦 氏

 (株)リクルートで長年カーセンサー発行に携わった後、大手自動車販売会社にて営業担当役員、経営企画担当役員を歴任。2011年に(株)オートサーバーに移り、主に店頭商談NET、みるクルといった小売支援ツールの開発・推進の他、いかに無在庫で情報だけでクルマを売るかというテーマに取り組んでいる。


資料請求は電話0120−47−2610でも受付しております。

(営業時間 平日9:00〜17:30)