事業承継への第一歩 第4弾『M&Aという選択肢について』
目次
こんにちは、ブロードリーフの楠本です。これまで「ファミリービジネスの魅力と課題」「親族内継承」「従業員継承」についてお話ししてきました。今回は最終回として、「M&Aという選択肢」についてご紹介します。
M&Aの現状
下記の図は、近年の事業承継における経営者の就任経緯を示したものです。M&Aは親族内継承や従業員継承と同程度の割合で行われており、近年その割合は増加傾向にあります。
代表者・就任経緯別 推移(2020年以降)

M&Aとは?
ニュースなどで取り上げられる大企業のM&Aは、市場拡大や新規事業への参入を目的としていますが、中小企業においては、第三者に事業を引き継ぐ手段として注目されています。親族や従業員への承継が難しい場合、外部の企業に事業を譲渡することで事業の継続を図ることができます。
M&Aの最大の課題
結論から言うと、大幅な債務超過や長期間にわたる営業赤字が続いている場合、買い手がつかない可能性が高くM&Aの実現は難しくなります。認証資格や工場設備が整っていても、事業としての魅力がなければ承継は困難です。そのため、M&Aを進める前に経営改善を行うことが不可欠です。
一方で、経営が順調で後継者がいない場合のM&Aには近年のM&Aのプロセスでは、まずノンネームシートを提示し、入札やM&Aプラットフォームを通じて買い手を探します。大きな可能性があります。それでは、M&Aの流れについて説明します。
M&Aの一般的な流れ
一般的なM&Aの流れは下記のようになっています。

デューデリジェンスは、投資対象企業の価値やリスクを調査するプロセスです。小規模なM&Aでは、コストや期間の負担を考慮し、省略されることもあります。
M&Aの主要な手法
M&Aには主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2種類があります。それぞれのメリット・デメリットを整理しました。
株式譲渡
メリット | デメリット | |
買い手 | 手続きが簡単、 オーナーが変わるだけで社名、従業員、技術、 商圏など経営資源がそのまま手に入る。 | 会社の債務、個人の連帯保証だけでなく簿外債務まで引き継ぐ可能性がある。 |
売り手 | 会社債務、個人の連帯保証から解放される。 | 残したい資産を選ぶことができない。 |
事業譲渡
メリット | デメリット | |
買い手 | 余計な債務や個人補償を引き継ぐ必要がない。 | 従業員は各人の同意なしに強制的に移籍させられない。会社に帰属する権利や免許が移転しない場合がある。 |
売り手 | 残したたい事業を選ぶことができる。 | 会社の一部のため、 残した会社の整理が必要 |
M&Aの注意点
- 売り手側の注意点
- ■財務整理を行い、譲渡準備を整えておく。
- ■譲渡に関する重要ポイントを整理する。
- ■リーガルチェックの体制を整備する。
- 買い手側の注意点
- ■自社の事業戦略を明確にし、買収対象を整理する。
- ■ノンネームシートを確認し、譲渡金額などの条件を精査する。
- ■面談時に経営者の人柄や誠実さを見極める。
第三者承継を支援する公的機関
- 公的支援機関:事業承継・引継ぎ支援センター
- 各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターでは、中小企業の事業承継に関する無料相談を受け付けています。ここでは、M&Aに関する初期相談をはじめ、専門家の紹介や事業承継の相手を見つけるためのマッチング支援が提供されています。また、事業承継計画の策定をサポートし、資金調達に関するアドバイスも行うことで、スムーズな事業承継の実現を支援しています。
- 民間M&A仲介業者:専門のM&A仲介サービスを提供する民間企業
- 民間M&A仲介業者は、企業の買い手と売り手を結びつけ、M&Aプロセス全体を支援する役割を担っています。具体的には、財務や法務のデューデリジェンスを実施し、企業の状況を精査することで、リスクを軽減しながら適切な買収・売却が進められるようサポートします。また、売り手と買い手の交渉を代行し、円滑な契約締結を支援します。これらのサービスは専門的な知識を要するため、仲介手数料が発生しますが、その分スムーズで確実なM&Aの実現が期待できます。
事業承継の準備プロセス
事業承継について、親族内承継、従業員承継、M&Aについてご紹介してきましたが、それぞれは別々の手段ではなく、事業承継のステップとして総合的に考えることが重要です。承継の5年前から準備を始めることで、スムーズな移行が可能になります。
5年前
- ■親族内承継の可能性を探る
- ■経営後継者の育成(中小企業大学校 経営後継者研修など)
- ■財務整理、株式整理、人事・組織管理、経営者保証の解除準備
- ■知的資産の整理と事業戦略の構築
3年前
- ■従業員承継の可能性を検討
- ■従業員の不安を解消し、円滑な承継を進める
- ■経営者マインドの育成
- ■事業性評価を行い、承継のリスクを低減
- ■経営革新と支援制度を活用
1年前
- ■M&Aの可能性を検討
- ■公的・民間の支援機関を活用し、適切な買い手を探す
- ■自社の強みを明確にし、魅力を伝える準備
- ■株主の整理、財務整理、事業性評価
- ■M&Aの優先順位を決定
結論
M&Aは事業承継の重要な選択肢の一つです。事業の存続と成長を確保するためには、適切な準備と戦略が不可欠です。財務整理や事業性評価を早めに行い、専門家の支援を活用しながらスムーズなM&Aを進めることが成功の鍵となります。ただし、近年では一部のM&A仲介業者の不適切な対応が問題視されるケースも増えています。そのため、M&Aを進める際には、信頼できるパートナーを慎重に選ぶことが極めて重要です。適切な専門家の支援を受けることで、円滑かつ公正なM&Aを実現し、自社に最適な承継方法を見極め、未来へ向けた一歩を踏み出しましょう。
※M&Aの実務は、財務指標だけでなく、技術・人材・市場性などの総合的な評価が必要であり、規模や業態に応じた適切な準備期間とプロセスの設計が重要です。本コラムは概要を示すものですので、具体的な検討の際は、専門家への相談を含めた慎重な判断をお勧めします。